2010年8月23日月曜日

篠原住職の講演記録~「無縁社会(孤立社会)から有縁社会への回帰」

8月7日「第2回神儒仏合同シンポジウム」(神田明神)での、篠原鋭一住職の講演~「(テーマ)無縁社会(孤立社会)から有縁社会への回帰」について、印象に残ったことを記録しておく。

篠原住職は、千葉県曹洞宗長寿院住職であり、「NPO法人 自殺ネットワーク風」 の代表である。「死のうとしている人をなんとか生の方向へ」という強い気持ちで、自死志願者に対する支援活動を20年続けてきた。

住職自身の経験、自死志願者との直接的な対話を踏まえ、自死志願の本質的原因である「無縁社会(孤立社会)」を、「有縁社会」へと移行させるという方向性を示し、今後の課題を提示した。なお「無縁社会(孤立社会)」は、住職によると「血縁・地縁・社縁が断絶することにより、人間関係が薄くなり、孤独・断絶・孤立という苦悩が持つ人々が増えた社会のこと」である。(シンポジウム資料より)



近年、相談数は急激に増加し、少なくとも月に15本は「もう限界だ」という電話を受けるという。こうした自死志願者の「心の弱さ」などがよく指摘されるが、そのような社会的偏見こそ、自殺のなくならない社会の本質的原因である。自死は自死志願者本人の問題ではなく、この社会の連帯責任である。我々自身が意識を転換させなければならない。

例えば、月に3~5回は、活動を批判する電話がくる。「死にたい人間は死なせておけ」、「それでラクになるならいいではないか」といった類のものだ。

住職はそのうち、数人の孫がいるという男性にこう返したという。「お孫さんがもし自殺したいと仰ったら、『それでラクになるなら死なせておけ』といえますか」と。男性は怒り、当然否定する。そう、所詮は他人事である。このような「他人事」という意識では、絶対に自殺は減少しないし、なくならない。

ちなみに、各鉄道会社への抗議活動もしているという。電車での「人身事故」のアナウンスをどうにかして欲しいという要求だ。私も身に覚えがあるが、利用者から「迷惑」という意識や言葉が生じる。そういった世間の言葉を聞くことになる、自死遺族の方々の心情に配慮するべき、という考えからだ。



住職は、「自殺」と「自死」とをわける。自殺は、三島由紀夫のように納得し、覚悟の上で死を選ぶこと。だが、電話をかけてくる自死の志願者のほとんどは、「できることなら生きていたい」と願っている。そして、自死へ向かう人々の経路を以下のように示す。「社会的構造からくる多重苦」→「存在・生存が否定される」→「孤独」→「孤立」→「自死念慮」→「自死の決行」(上記資料より)

「孤独」は、家族や友人、周囲の人たちとの関わりの中で乗り越えられる。「孤立」は人とのつながりを持たない。それゆえ「孤立」からの解放が生存への意欲を生むのである。



自殺者数の増加から、マスコミがよく取材に来る。だが数値ばかりを伝えて、本質的なことを追求しないことが非常に不満だという。

最近でも、高齢者の100歳の老人の行方不明をさかんに報じているが、ここ最近起こったことではない自死志願者のひとり、77歳のおばあちゃんは、近くに7人の子供がいるが、4年も会いに来ないと語る。住職が連絡を取り付け、何とか子供達との絆を再生しようとするが、当人たちは迷惑がり、やはり困難だという。住職宛に詠んだおばあちゃんの短歌がとても悲しく響いた。

また、秋葉原事件に関連して、自死志願者の若者には3通りあるという。1、他人への暴力願望を持つ人。 2、戦争願望を持つ人 3、静かに消えたいという人。このうち暴力願望を持つ若者は、秋葉原の事件の加害者の感覚がとても分るのだという。 



実際の支援活動において、自死志願者に対しては、ただ黙って聞くという。最初は双方黙ったまま、とても長い時間が過ぎる。そして寺の部屋から見える、木々や山の静かな景色に、「落ち着きますね」と言う。何も話さなずとしても、必ず次に会う日時を明確に決め、待ってるということを伝える。待っている人がいるというだけでよいのだ。

人は生きていれば迷惑をかけざるを得ない。それゆえ迷惑を受けるべきなのである。宗教者にはぜひ、話を聞く側になってほしい。社会苦をみつめて実践、行動すること。慈悲業としての福祉、という考え方である。そして一番大切なのは、やはり人とのつながりであると、最後に改めて訴えた。



*篠原住職による、シンポジウム資料から「今後の課題」を引用しておく。

「 1.中学生、高校生くらいから『いのちの重さ』『いのちの大切さ』についての教育をしましょう。
 
 2.地域コミュニティの再生。祭やイベントによって地域社会で共生する。お互いの顔が見えるような環境を作りましょう。
 
 3.『自死を考えている人』『うつ病で悩んでいる人』『自死遺族の方』に対する偏見や差別意識を持つ地域社会を作ることはやめましょう。
 
 4.いつでも気軽に相談できる窓口や安心して話のできる相談員を市町村に増やしましょう。電話一本あるだけで多くの人々が相談できます。 」



*「NPO法人 ネットワーク 風」の活動では、複数の寺院連携して窓口となり、講習会なども開いている。以下、関連記事。

2010.2「西日本新聞」
2009.10「中外日報」
2009.12 萬屋拳さんという方のブログ「自殺防止お寺の取り組み」

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