2015年8月16日日曜日

戦争と戦地の本


この春夏に読んだ戦争に関わる本から少し。



目取真俊 『水滴』 『魂込め』 『短編小説選集3 面影と連れて』

目取真さんの一連の著作。死者と遺された者の魂と身体のつながりが、一体となるほどに強くて、恐ろしく悲しくなる。遺された者は戦後も流れていく世間の時間とは別の次元で、死者と触れあいともに苦しむ。ときに、こちら側へと戻ることができない。これらの語りは、この土地の無数の死者たちと遺された者たちのどこか共通の「記憶」から生まれたように感じる。あるいは、封印され語られなかった「体験談」かもしれない。そして、読むと神話のように強烈に心の底が揺さぶられ、導かれる。人々の信仰が刻まれた神的な自然、海、そして、抱えきれないほどの悲しみを積み重ねた沖縄という土地の磁場の力を感じずにはいられない。





高井有一 『この国の空』
 
今夏、映画化されたのを機に読む。着物と米を交換に行った秩父の村にて、強い日差しの下、川で汗ばんだ白いシャツを洗う場面がとても眩しい。その川辺で母娘が頬ばるお握り、神社で恋人たちが食べるお弁当、日々の釜の白米、麦、豆の割合、蒸しパンの堅さ、畑のト マトの瑞々しさ、服装の布地の種類、女たちの揺れ動く感情と言動が、終戦間近、いつ来るかもしれぬ赤紙や空襲の恐怖とともに細やかに綴られている。けれども、少女から大人の女性への成長、戦時における男女の恋愛、市井の人々の逞しさを描く―、というより日常描写の中で際立つのは、確かに身に迫る恐怖におびえる精神の異常さ、親しき者たちとの関係性をも捩じらせる、人間性を歪めさせる戦時の異常さである。





後藤健二 『ルワンダの祈り』 『もしも学校に行けたら』

戦地で接する子供や家族への優しいまなざしや気遣い、誠実さ、それゆえの温かな信頼関係が文章から察せられる。いずれも児童書。小学生の頃に読んでおけばよかったとまず思った。世界の片隅に生きる子どもが、もう一方の片隅に生きる子どものまるで異なる日常を、知ることができたかもしれない。後藤さんの仕事は悲しいきっかけで知ることとなったが、思いが引き継がれんことを心から願う。あの残酷な事件の記憶のなかでの後藤さんではなく、命がけで成してきた貴い仕事とその姿勢を留めておきたいと思う。

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