2012年11月25日日曜日

『世界最古の洞窟壁画 35mm 忘れられた夢の記憶』

ヘルツォーク監督の『世界最古の洞窟壁画 35mm 忘れられた夢の記憶』を観てきた。

フランス南部のショーヴェ洞窟に描かれた、約3万2000年前の 壁画をじっくりと映し出してくれている。墨絵のような濃淡のある馬の連作は圧巻で、いなないている口まで写実した観察眼にも驚く。岩面の凹凸を生かした躍動感ある牛やサイ、ライオン…。個が浮き彫りになる、洞窟の奥まで続く小指の折れ曲がった手形。そして暗闇の中に揺れたであろう火の跡が残る。芸術と儀式の場として、美しい川沿いの風景の中に、ショーヴェ洞窟はある 。その「宗教性」を思わずにいられない。


興味深かったのは、現地の考古学者の語り口である。洞窟の内部構造や、壁画の重ねられた画の読み取りや、炭素年代法など、科学的手法を駆使しつつも、自らの洞窟内での体験を通して、感覚的主観的に、かつての人々を洞窟空間を、生きた対象として「今」「私」に引きつけ、独自の言葉を紡いでいく。文化人類学、哲学にも通じる現地の考古学の在り方がうかがえる。



なお、映像の追記として、ショーベ洞窟の30キロ圏内に稼働する原 子力発電所が映される。排水による水温の上昇で熱帯植物が、そして(白く変異した…)鰐が増殖しており、洞窟への影響を案じるよう結ばれる。 氷河時代も経てきたショーヴェ洞窟。原的なものからの強烈な問いかけがある。

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