―心身の痛みで極限状態のなか、冗談を言い合い、一日一切れのパンの食べ方に頭を悩ませ、生きぬくためのあらゆる工夫を重ねる。過度の疲労の中、愛する 人の像を想い声を聞く。そんな彼らの思考と心理を、素朴でリアルに記述しているので、その一瞬一瞬に近づき、気持ちが重なっていく。彼らと私が何ら変わら ぬ人間であることが感じられる。
そして同時に、アウシュビッツの悲惨さを戦争や歴史を、まだまだ言葉や映像や数字だけで捉えていることに気づく。過去も現在も苦しみの中にいる多くの人々は当然ながら、我々と同じ心理と肉体と日常生活とを持ったひとりひとりであるということ。
フランクルは、どんなに人間性が損なわれる状況においても、人生そのもの、「今」という瞬間は意味を持つと教える。人間であることをやめず、内的自由を持つ という決断がいかに生き残る力を与えたか(アウシュビッツではいかに困難な決断であったか)。囚人の仲間たちにも語り励ます場面があったが、読んでいる私 にも生き方の指針と、生き延びることの重さを教えてくれた。心理学が人間の生の地平、生き方の問題にも深く触れてくるということも、私にとって発見だっ た。
霜山徳爾訳の旧版は、70ページほどの強制収容所の詳細な解説と、写真図版を収録している。
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