2009年1月11日日曜日

筑紫哲也さん。伝わる言葉。

3日くらい前、電車を2回も降り過ごしてしまった。決まって授業開始30分前には校舎に着いているのに開始1,2分前に走り込む。さすがに電話を一本入れたし特に授業準備も要らなかったので難は逃れたが、こんなことはなかったので驚いた。

筑 紫哲也さんのことを考えていた。一度、学部生のときに大学に来て話を聞く機会があった。ホワイトボードに三角形を書き、頂点に情報、支える部分に情報につい て思考する能力がある、現代では情報に溢れこの関係が逆になっているという、基本的な話をしていた。当時は新聞記者になりたかったので、メモをとりながら 熱心に聞いた。浪人時代にテレビはまるで観なかったが、筑紫さんの「ニュース23」だけは観ていて「多事争論」を頭の中で反復していた。テレビ業界に筑紫 さんがいて、色々批判されてはいても、周囲から支持されているということで安心感があった。マスコミは筑紫さん亡き後どうなってしまうんだろう、と個人的 だけれど思う。

前の晩に「WEB多事争論」を観た。病気 が進行して帽子を被った筑紫さんが、病院か何処かの屋上で、時おり例の柔らかな笑顔をみせながら「この国は癌に侵されている」という話をする。世代でパイ を分け合うという政治の基本的な議論が成り立っていない、全く関係のないところにパイが行ってしまっている。例えば教育費にも社会福祉や医療費にも行かず に、無駄な道路やらに税金が流出している、未来にも過去にも投資されていない。そんなような話だ。観るのは2度目だが、ずしりときた。表情も声のトーンも お元気な頃のままで鋭くて力強い。本当のところは知らないけれど、筑紫さんはまだ世界を見続けて発言したかっただろうし、そう願うので心が痛む。

追 悼の特集は初めて観た。藤原帰一さん、土井たか子さん、小澤征璽さん、石川さゆりさんの話が印象に残った。藤原さんは、筑紫さんがオバマ氏の大統領選での 勝利を知ってから死んだのか気にしていた。筑紫さんはここ数年のアメリカを悲しんでいたと。そしてオバマ氏を評価し期待していたが、アメリカが彼を受け入 れるとは思っていなかったという話だった。

石川さゆりさんは、彼女の歌うような声のトーンに話が情緒的に響くのかもしれないけれど、筑紫さんは本当に人の話 をよく聞くと言っていた。やはり優しさなんだと思う。それから複数の人の発言にもあって私もそこだと思ったのだが、筑紫さんは品がいいということだ。怒りが内に あっても冷静に静かに発言をする。芸術や音楽を理解し愛していたことにも関係あるのだろう。それはとても貴重なことだと思う。

当然のことで、人柄あってこそ言葉に説得力がある。今まで何度も感じた事があるけれど、いくら緻密に完成されて的確でもっともな文章を書いていても、人柄が伴わなければ完成された論だけがあって説得力を持って響いてこない。一瞬圧倒されるのだけど。

こ こ2年くらい機会があって西田哲学の研究者、小坂国継先生の講義を受けた。現代社会に対して根本的なところに問題意識を持っていて、強い怒りや思想を追求する情熱をもっている のが伝わるのだが、あくまで穏やかで謙虚で品がある。拙い質問にもじっくり耳を傾けている。機会があれば講義内容をまとめたいのだけれど、先生の言葉には伝える力があると思う。

私は怒りや感情の高揚に任せて一気にまくし立ててしまう。夢中で話していると、人の話をじっくり聞くこに意識が向かない。意識していきたいと思った。

近 年は、影響を受けた人たちが亡くなってしまう。河合隼雄さんや加藤周一さんが亡くなった時もとてもショックだった。加藤周一さんは一度だけ、10年近く前 になるだろうが講演を聴いた。内容は忘れてしまったが腰を曲げてよたよたとマイクまで歩いてきたのに、話し始めると熱を帯び、制限時間を告げにくる人を数 回、手で制しながら勢いよくしゃべり続ける姿を強烈に覚えている。そういえば先日NHKで、1968年の出来事と「言葉と戦車」の論稿を軸に加藤さんの特集をしていてとても興味深かった。

1945年や1968年など時代の転換期を体験して、真剣に思考し言葉にしてきた人たちがいて、伝えなくてはとすごいパワーで語りかけてくる。

世代交代ができるのか、と思う。

2 件のコメント:

  1. ショックでしたな。
    また、一つの時代がおわったような、気になりましたね。

    麻生政権の政治が、フラフラフラフラしているのをみると、渡辺元行革大臣が、ものすごいヒーローに見えてくる。

    麻生政権が、ここんとこずっと続いている、へなちょこ内閣の最後の代であった、となってほしい。

    給付金なんていらないから、お金をどうか、有効に使って欲しい。埋蔵金に沢山のアリが群がっているようにしかみえない。

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  2. 筑紫さんショック、やはり同郷?同世代ですね。

    給付金、ものすごく愚策に思えますが。深い意図が何か他にあるんだろうか。それこそパイの目標あやふやな分散みたい。

    アメリカのような劇的な政治や国民の熱狂は求めないけれど、骨太な政治家同士のまともな議論とか日本にもあればよいのに。知的であれば良いのじゃないけど。

    私たちの世代だものね、今の労働問題とか。他人事に全然思えず怒りが沸いてしまう。これからもっとリアルに政治に影響されるんだろうな、生活が。

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