2009年6月11日木曜日

ラフカディオ・ハーンと日本文化

ここ最近、ラフカディオハーンの関連書籍を軸に、異文化理解と日本文化の性質について考えている。ハーンの独特の生き方や日本との関わり方、著作、欧米人への影響をみていくと様々にテーマが展開し、次々に問題がでてくる。

そのため骨組みを作ったはいいが、いっこうにまとまらない。

ドナルド・キーンをはじめ、日本研究に関わる欧米人のハーン批判に共通するのは、西洋人が理解できぬほど「日本を神秘化した」という点だ。それからアイデンティティーの喪失と、分裂的であいまいな性質。それは欧米人から見た、日本人の否定的側面と類似しているといった指摘がある。

神秘性と、暗示的な表現、ここに表現の簡潔さ等々が加わるが、これらの性質は、芸術及び文学の「ジャポニズム」の領域では日本文化の魅力として欧米に受け入れられてきた側面でもある。
(それにしても外国人が抱く「神秘性」とはなんなのか。美的価値としての「神秘性」というのもはっきりしない。)

実際、日本文化がこのような性質を持っているのか、そのうえで自文化の性質を自覚し、経済、文化あらゆる分野での交流において、どのようなレスポンスをとるべきか。そんな流れで考えている。

外国人の日本人論を読んでいると、一概に「日本人」とくくることはできないし否定したい内容はあるが、気づかされるところが多い。自分を見る新たな視点を得るということか。

また、異文化の受容と自文化の発信のしかたを考えることは、自国のアイデンティティーを模索することにつながってくる。歴史的にみて、バランスのとれた文化交流をしていない日本はこの点をおざなりにしてきたという指摘は、納得がいく。(この指摘には、異文化受容において、明治期の日本の知識人及び、現代の研究者は、「異文化埋没型」、「異文化拒否型」の二極に分かれるとある。)

だが文化のアイデンティティーについては、例えば死生観といった精神の深いところまでおりないと見えてこない問題でもある。自分自身の内面と社会との接点を意識して突き詰めるということだ。

ハーンは世界各国を移動し、根付く場所を探していた。欧米人からハーンをみれば宗教の問題がひっかかるのだと思う。ギリシャ出身であり、幼い頃の経験からキリスト教を嫌悪し、ギリシャの神々や精霊に惹かれた。日本の神道や文化への親近感をもつゆえんに思う。彼自身の内面に触れる部分が日本文化のうちにあったのだろう。このことは彼の作家生活にも表れている。

松江、熊本から東京へ移った晩年、ハーンは「KWAIDAN」を著すが、作風は文学のジャポニズムともいわれ、リアリズムを無視し、暗示的で簡潔。一年数か月のわずかな松江での生活から見出した日本の美的価値が、表現者としての拠りどころになっていたという。

「あおやぎ物語」(「THE STORY OF AOYAGI」)は、樹の精が登場する美しい物語であるが、ギリシャのアニミズムと日本の風土が違和感なく融合していて感じ入ってしまう。

それから、ハーンはたびたび「ghostly」という言葉を使うのだが、そこに彼の本質的な部分が表れているように思う。彼にとって文学の根底に求められるのも「ghostly」である。(「ghostly」の生まれる源泉が夢だと言っているのがおもしろい。)

『さまよえる魂の歌』(ちくま文庫)にある、次のような言葉が印象に残っている。


霊(ghost)的なものにたいする感覚を持たない人間が、なにかに生命を吹き込むことなどできるはずはない、人々の魂に触れることを可能ならしめているのは、言葉そのものである、しかもそれを知るためには、同じように言葉によってしか触れられない霊(ghost)的なるものを、自らのうちに保有していなくてはならない。(「文学における超自然的なるもの」)


ハーンが日本文化、あるいは松江を通して抱いた日本の美的価値のどこにghostlyを見出したのか、はっきりは分からない。だが現代にも持続している日本文化の根底にある一要素に触れている気がしてならない。

今回、課題をまとめるにあたって日本人論、異文化理解についての著作を拾い読みしているが、なかでも河合隼雄さんが経験をもとに、自分の意識にある「内なる異文化」から異文化理解を書いていて興味深かった。(『体験としての異文化』岩波書店)

それから馬渕明子『ジャポニズム 幻想の日本』(星雲社)も分かりやすいのでジャポニズム入門者の私には興味深く読めた。

ジャポニズム文学では、フランシス・キング『日本の雨傘』が、60年代の古いものだが良い出会いだった。原文の巧みさに訳の良さも加わってか、日本人が書いたもののように日本語訳に違和感がない。登場人物も日本人で、心理描写も簡潔だが理解しやすく共感できる。奇妙な体験をした気がする。他の著作は訳本が出されていないので原著を注文したが、いつ読破できるだろうか、、。この流れで、カズオ・イシグロの一連の著作も是非読みたいと思った。

そういえば外国人からみた神道というのも興味深いテーマだと思う。その枠組みの中で、日本文化や現代の宗教問題と絡めて考えてみたい。

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